失踪してしまった債権者

失踪してしまった債権者-2件

失踪してしまった債権者

平成128月下旬に当所弁護士受任者が失踪するといった出来事が起きた。この依頼者(男性:35歳:既婚:子供一人)は、いわゆる多重債務者で、あちこちの消費者金融より金銭の借入れを行っているうちに返済不能に陥り、債務の整理として弁護士が代理人を受任している状況であった。

 受任当時、総債務額¥2,420,867であったのに対し、全ての債権者と話し合いの末に確定した返済総額は¥761,208となり、吉報ともいうべき報告の直後の出来事であった。

 失踪は8月下旬に奥様から連絡があり明らかになった。この依頼者は弁護士との面談時に「今すぐには、借金があることを家族には話せない」といった状態であったが、本人の真面目な人柄と、強い返済意思が確認できたために受任した依頼者であった。和解の段階で弁護士会指導を遵守する池田弁護士と、営利を追求する貸金業者との溝は深まり、ついには訴訟にまで発展した件もあった。そのこともあってか奥様に打ち明けることができたという。弁護士への入金を一度も遅れることなく続け、あと半年で完済する予定であった矢先での失踪。愕然とする事務員を横目に、池田弁護士は冷静に「警察に届け出なさい」と電話口で奥様に告げた。

 月末の業務に追われ、依頼者の9月分の入金日が迫ってくるが池田弁護士は頭を抱えていた。「本来であれば委任契約を解除すべきであるが、本人がその後すぐに見付かれば一斉に業者からの取立てがゆくことになる。だからといって配偶者には法律上支払いの義務はなく債務の整理は必要ない」と。そんな時に、入金日の二日前に依頼者からの入金が確認された。奥様に確認したところ、奥様自身が入金したとのことで、「主人が見付かった時のことを考え、完済が目前なので入金した。依然主人は見付からない」との報告を受けた。

 そして10月。弁護士と名乗る男から連絡が入り「奥様の代理人だが、奥様には法律上支払いの義務はないので契約解除してください」と連絡が入った。事実そのとおりで弁護士が代理人になったのならば依頼者が見付かった場合も大丈夫であろうと106日、池田弁護士は委任契約を解除した。

 しかし、この委任契約解除直後に失踪していた依頼者本人から連絡が入り、「電話では話しづらい」ということで翌日に来所することになった。

 翌日に来所して話しを聞けば、失踪中はホームレスのような生活をしていたが、秋口に入り肌寒くなってきたので家に帰ったという。何で失踪なんかしていたかと問うと、受任面接時に申告していなかった業者が3件あると答えた。この3件の業者の債務は物品購入であり、法定利率以下の金利なので弁護士に依頼しても減額できないと判断したので言わなかったが、金利を考えていなかったために返済と債務整理の両立が出来なくなってきたと答えた。何で相談しなかったのかと弁護士が聞くと、委任契約書の条項に「虚偽の申告並びに事実の隠蔽、著しい不信行為のあった場合には即刻辞任になる」という文章があったため、失踪し苦悩していたと話した。同日、本人の面前で辞任通知を郵送していた業者に連絡をし、状況を説明すると和解を組んでいた全ての業者が、「もう一度受任通知を郵送してください。和解内容については今までどおりで結構です」とご厚意ある返答をいただいた。

 現在、当依頼者は申告していなかった3件の業者を改めて弁護士に委任し債務整理を継続している。当然今まで勤めていた会社は解雇となった。新しい就職先の目処はついているが当面は金銭的に厳しいということで奥様のご両親のもとで生活を送っている。また、よくよく聞いてみれば「弁護士と名乗る男」とは依頼者の兄弟だったという。家族はもとより債権者、弁護士を巻き込んだ当事務所の出来事であった。


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